うつ病の人が食べてはいけないもの・食べるといいもの
■ はじめに
うつ病で気力がないとき、食事に気を配るのは難しいことです。食欲がわかない、何を食べればいいかわからない、そもそも台所に立つ気になれない——そういったご経験をお持ちの方も多いと思います。
でも、少し聞いてください。食事と脳の状態は、思っている以上に密接につながっています。何を食べるか・何を避けるかは、脳内の神経伝達物質のバランスに直接影響し、気分や意欲の回復を助けることも、妨げることもあります。
「薬を飲んでいるから食事は関係ない」ではなく、「薬と並行して、食事でも脳を支えていく」という視点が、回復を後押しします。
本記事では、うつ病の方が避けた方がいい食べ物と、積極的に取り入れてほしい食べ物・栄養素について、できるだけわかりやすくお伝えします。完璧にやろうとしなくて大丈夫です。「少し気をつけてみようかな」という気持ちで読んでいただければ十分です。
■ なぜ食事がうつ病に関係するのか
脳は、私たちが食べたものを材料として動いています。気分を安定させるセロトニン、意欲を生み出すドーパミン、集中力を支えるノルアドレナリン——これらの神経伝達物質は、食事から摂取したアミノ酸・ビタミン・ミネラルをもとに合成されます。
つまり、必要な栄養素が不足すれば、神経伝達物質をうまく作れなくなり、気分の落ち込みや意欲の低下が起きやすくなるということです。逆に言えば、食事を整えることで脳が動きやすい環境を作ることができます。
また、腸と脳は「腸脳相関」と呼ばれる深いつながりを持っており、腸内環境の乱れがメンタルの不調に影響することも、近年の研究で明らかになっています。セロトニンの約90%は腸で作られているという事実も、腸の健康がいかに精神状態に影響するかを示しています。
▼ 参考:健康日本21アクション支援システム「食物繊維の必要性と健康」
食事はうつ病の「治療」そのものではありませんが、回復を支える重要な土台のひとつです。
■ うつ病の人が「避けた方がいい」食べ物
まずは、脳や気分に悪影響を与えやすい食べ物から見ていきましょう。「絶対に食べてはいけない」というわけではなく、摂りすぎに注意が必要なものとして参考にしてください。
【① 糖質の多い食品・砂糖のとりすぎ】
甘いものを食べると一時的に気分が上がります。これは血糖値が急上昇するためです。しかし問題は、その後に来る急降下です。血糖値が急激に下がる「血糖値スパイク」は、倦怠感・イライラ・集中力の低下・不安感を引き起こし、うつの症状を悪化させやすくなります。
うつ病のときは甘いものに頼りたくなることが多いのですが、それが気分の波をさらに激しくしてしまうという悪循環があります。白砂糖・菓子パン・清涼飲料水・スイーツ類の過剰摂取には注意が必要です。
「甘いものを食べると少し楽になる」という感覚は本物ですが、それは一時的なものです。長い目で見ると、血糖値の乱高下がメンタルの不安定さを助長します。
【② アルコール】
落ち込んでいるとき、「お酒を飲むと少し楽になる」と感じる方もいるかもしれません。しかしアルコールは中枢神経を抑制する物質であり、一時的に気分が和らいでも、そのあとに気分の落ち込み・不安・睡眠の質の低下をもたらします。
また、アルコールはセロトニンの産生を妨げることがわかっています。うつ病治療中の方がお酒を飲むと、薬の効果が出にくくなるだけでなく、症状そのものを悪化させるリスクがあります。抗うつ薬との飲み合わせが危険なケースもあるため、治療中は原則として禁酒をお勧めしています。
【③ カフェインのとりすぎ】
コーヒーや緑茶、エナジードリンクに含まれるカフェインは、適量であれば覚醒作用をもたらしますが、とりすぎると不安感の増大・睡眠の妨害・神経の過敏化を引き起こします。
うつ病の方は睡眠障害を抱えているケースが多く、夕方以降のカフェイン摂取が睡眠をさらに浅くしてしまうことがあります。「眠れないからコーヒーを飲んで乗り切る」という習慣が、症状の悪化につながっていることも少なくありません。1日2〜3杯程度を上限に、午後3時以降は控えることをお勧めします。
【④ 超加工食品・ファストフード・インスタント食品】
手軽に食べられるファストフードやコンビニ食、インスタント麺などは、食品添加物・トランス脂肪酸・精製糖を多く含みます。これらは腸内環境を乱し、脳への炎症性物質の産生を促す可能性があります。
近年の研究では、超加工食品の摂取量が多い人ほどうつ病のリスクが高いという報告が複数出ています。体力的・気力的にキッチンに立てないとき、コンビニ食に頼ることは現実的な選択ですが、できる範囲で食材を選ぶ意識が助けになります。
【⑤ 食事を抜く・極端な少食】
うつ病になると食欲が落ち、「食べたくない」という状態が続くことがあります。しかし食事を抜くと血糖値が急激に下がり、脳へのエネルギー供給が不安定になります。その結果、集中力の低下・イライラ・気分の落ち込みがさらに強まります。
「食欲がないときは無理に食べなくていい」という考えも理解できますが、脳を動かすために最低限のエネルギーを摂ることは必要です。少量でも口にできるもの——バナナ・ヨーグルト・おにぎり1個でも——から始めてみてください。
■ うつ病の人が「積極的に摂りたい」食べ物・栄養素
次に、脳の回復を支えるために意識して摂ってほしい栄養素と食品をご紹介します。
【① トリプトファン——セロトニンの原料となるアミノ酸】
セロトニンは、「トリプトファン」というアミノ酸を材料として脳内で合成されます。つまり、トリプトファンが不足するとセロトニンが作られにくくなり、気分の落ち込みや不安が強まりやすくなります。
トリプトファンを多く含む食品:
・大豆製品(豆腐、納豆、みそ、豆乳)
・乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト)
・卵
・バナナ
・鶏肉・豚肉
・かつお・まぐろ
毎日の食事の中に、これらをひとつでも取り入れることを意識してみてください。
【② ビタミンB群——神経伝達物質の合成を助ける】
ビタミンB6・B12・葉酸は、セロトニンやドーパミンの合成に深く関わっています。これらが不足すると、神経伝達物質をうまく作れなくなります。うつ病の方にビタミンB群不足が多く見られることは、臨床の現場でもよく経験します。
ビタミンB6を多く含む食品:
・鶏むね肉・まぐろ・かつお・サーモン
・バナナ・じゃがいも
ビタミンB12・葉酸を多く含む食品:
・レバー・貝類(しじみ・あさり)
・ほうれん草・枝豆・アボカド
・卵・乳製品
葉酸は特に、妊娠中・産後の女性においてうつ病との関係が注目されている栄養素でもあります。
【③ オメガ3脂肪酸——脳の炎症を抑え、神経を保護する】
EPA・DHAに代表されるオメガ3脂肪酸は、脳の神経細胞膜の材料となり、炎症を抑える働きを持ちます。複数の研究で、オメガ3脂肪酸の摂取がうつ症状の改善に関連することが示されています。
オメガ3脂肪酸を多く含む食品:
・青魚(さば・いわし・さんま・あじ・ぶり)
・鮭
・えごま油・亜麻仁油
・くるみ
日本人は青魚を食べる文化がありますが、最近は食の欧米化によって摂取量が減っています。週2〜3回、青魚を意識して食べるだけでも変わってくることがあります。
【④ 発酵食品・食物繊維——腸内環境を整える】
前述の通り、セロトニンの約90%は腸で作られています。腸内環境を整えることが、脳の状態を整えることに直結します。
腸内環境を整える食品:
・発酵食品(ヨーグルト・納豆・みそ・ぬか漬け・キムチ)
・食物繊維が豊富な野菜(ごぼう・れんこん・きのこ・海藻類)
・オリゴ糖を含む食品(バナナ・玉ねぎ・大豆)
「腸活」というと難しく聞こえますが、毎朝ヨーグルトを食べる、みそ汁を飲む、といった小さな習慣で十分です。
【⑤ マグネシウム・亜鉛——神経の安定に関わるミネラル】
マグネシウムは神経の興奮を抑え、精神的な安定に寄与します。亜鉛は脳内の神経伝達を助ける役割を持ちます。どちらも現代の食生活で不足しやすいミネラルです。
マグネシウムを多く含む食品:
・ほうれん草・アーモンド・豆腐・わかめ・玄米
亜鉛を多く含む食品:
・牡蠣・牛肉・豚肉・チーズ・納豆
【⑥ ビタミンD——日照不足の方は特に注意】
ビタミンDは骨の健康だけでなく、脳の機能やセロトニンの産生にも関わっています。日本では、特に冬季や日光に当たる機会が少ない方でビタミンD不足が多く見られます。在宅ワークが増えた現代では、年代問わず不足しやすくなっています。
ビタミンDを多く含む食品:
・鮭・さんま・いわし・まぐろ
・きのこ類(干ししいたけ・まいたけ)
・卵黄
食事からの摂取に加え、天気のいい日に少し外を歩くだけでも、日光によるビタミンD合成を促せます。
■ 食事を整えるうえでの、現実的なアドバイス
うつ病のとき、食事を「きちんとしなければ」と思うこと自体がストレスになることがあります。完璧を目指す必要はまったくありません。
まずは「これだけ」から始めてみてください。
・朝、バナナを1本食べる
・みそ汁を1杯飲む
・夕食に青魚を週2回取り入れる
・甘い飲み物をお茶か水に替える
・夕方以降のコーヒーを控えてみる
「全部やらなければ」ではなく、「ひとつだけ変えてみる」というスタンスで十分です。小さな変化が積み重なることで、脳のコンディションは少しずつ整っていきます。
また、うつ病の治療中は薬との相互作用に注意が必要なものもあります。サプリメントや健康食品を始める前には、必ず担当医に相談してください。
■ 食事だけで治そうとしないでください
最後に、大切なことをお伝えします。
食事は回復を「支える」ものであり、治療の代わりにはなりません。「食事を変えれば薬を飲まなくていい」「食事で治せる」という考え方は、残念ながら医学的な根拠がありません。
うつ病の治療には、専門家による診断・薬物療法・精神療法・休養が基本となります。食事はそれを補完するものとして位置づけてください。
「食事を少し気をつけながら、しっかり治療も受ける」——これが最も理にかなったアプローチです。
市川市・浦安市・船橋市・江戸川区にお住まいで、うつ病についてお悩みの方、まずは一度ご相談ください。一人で抱え込まずに、話しに来てもらえれば、一緒に考えます。
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■ 著者
さんメンタルクリニック院長 宇谷悦子
<経歴>
・鹿児島大学医学部医学科卒業
・鹿児島大学医学部眼科入局
・医師免許取得
・島根大学医学部精神医学講座入局
・島根大学医学部附属病院 外来医長 リエゾン医/緩和ケアチーム 兼任
・特定医療法人恵和会 石東病院 診療部長
・大田市立病院 非常勤医
・島根県央保健所こころの相談
・大田市自死対策委員
・南行徳メンタルクリニック副院長
・さんメンタルクリニック院長
<資格・所属学会>
・精神保健指定医
・日本精神神経学会
本記事は、医療機関の経営支援・Web戦略支援を専門とする
「株式会社C&D Hub」の取材・編集協力のもと作成しています。