うつ病の原因を医師が解説|脳の中で、何が起きているのか
「なぜ、こんなに気持ちが沈んでしまうのだろう」「怠けているわけじゃないのに、体が動かない」——うつ病に苦しむ多くの方から、こうした言葉をお聞きします。
うつ病は意志の弱さでも、性格の問題でもありません。脳という臓器に起きている、れっきとした医学的な変化です。
今回は、うつ病がなぜ起きるのか——脳のメカニズムから、環境・遺伝・ストレスとの関係まで、できるだけわかりやすくお伝えします。「自分がうつ病かもしれない」と感じている方、大切な人のことが心配な方、どうかこのまま読み進めてみてください。
■ うつ病とは——「気持ちの問題」ではない
うつ病は、気分・意欲・思考・身体機能など、生活のあらゆる面に影響を与える脳の疾患です。厚生労働省によれば、日本では生涯を通じて約15人に1人がうつ病を経験するとされており、けっして珍しい病気ではありません。
▼ 参考:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス──うつ病」
「気合で治る」「もっとポジティブに考えれば」という言葉は、骨折した人に「根性で歩け」と言うようなものです。うつ病は脳という臓器が正常に機能しにくくなっている状態であり、本人の努力や根性でどうにかなるものではありません。
まずこの前提を、患者さん本人にも、周囲の方にも、知っていただきたいと思います。
■ 脳の中で何が起きているのか
うつ病を理解するうえで欠かせないのが、「神経伝達物質」という脳内の化学物質のはたらきです。
私たちの脳は、無数の神経細胞(ニューロン)がネットワークを形成し、信号を伝え合うことで機能しています。その信号を橋渡しするのが神経伝達物質であり、なかでもうつ病と深く関係しているのが以下の3つです。
【セロトニン】
「幸せホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質です。気分の安定・穏やかさ・前向きな感情を支えています。不足すると、気分の落ち込み・不安感・睡眠障害が現れやすくなります。
【ノルアドレナリン】
意欲・集中力・覚醒をつかさどります。不足すると、やる気が出ない・集中できない・思考がまとまらないといった症状につながります。
【ドーパミン】
喜び・達成感・報酬感覚に関わります。不足すると、何をしても楽しくない・喜べない・感情が平坦になるといった「感情の麻痺」が起きやすくなります。
うつ病では、これらの神経伝達物質のバランスが崩れ、神経細胞間の情報伝達がうまくいかなくなります。その結果、気分の調節・意欲・睡眠・食欲・思考力など、脳が担うあらゆる機能に支障が出るのです。
また近年の研究では、神経伝達物質の不足だけでなく、ストレスホルモン(コルチゾール)の過剰分泌が脳の「海馬」という部位を萎縮させる可能性が示されています。海馬は記憶や感情の制御に深く関わっており、ここが傷つくことで思考力の低下や記憶障害、感情のコントロール不全が生じやすくなると考えられています。
つまりうつ病は、脳という臓器に起きた、目には見えないけれど確かな「炎症や機能不全」なのです。
■ うつ病を引き起こす4つの要因
うつ病は、ひとつの原因で起きるものではありません。複数の要因が絡み合って発症します。大きく分けると、以下の4つが関係しています。
【① 遺伝的要因】
うつ病には遺伝的な素因があることがわかっています。家族にうつ病の人がいる場合、発症リスクがやや高まるとされています。ただし「遺伝=必ずかかる」ではなく、あくまで発症しやすい「体質」のひとつとして理解してください。遺伝だけでうつ病が決まるわけではありません。
【② 環境的要因・ストレス】
職場でのプレッシャーや人間関係のトラブル、家族の介護、経済的な困窮、引越しや転職などの大きな生活変化——こうした慢性的なストレスが、脳に負荷をかけ続けます。特に「逃げ場がない」「誰にも話せない」と感じる状況が長く続くと、脳のストレス応答システムが過負荷になり、うつ病の引き金になりやすいとされています。
【③ 身体的要因・ホルモンバランス】
甲状腺機能低下症・貧血・慢性疼痛・がんなどの身体疾患がうつ症状を引き起こすことがあります。また、女性においては月経前・産後・更年期といったホルモン変動の時期にうつ病リスクが高まることが知られています。「更年期だから仕方ない」と放置せず、専門家に相談することが大切です。睡眠不足や不規則な生活習慣も、脳のコンディションを著しく乱します。
【④ 心理的・性格的要因】
真面目で責任感が強い、完璧主義、人の評価を気にしやすい——そういった気質の方は、慢性的に自分を追い詰めやすく、うつ病に至るリスクがやや高い傾向があります。ただし、これは「性格が悪いからうつになる」という意味では一切ありません。むしろ誠実で頑張り屋な人ほど、自分に過大な負荷をかけてしまいやすいということです。
この4つの要因は独立したものではなく、互いに影響し合っています。「なぜ自分がうつになったのか」を正確に理解するためには、専門家による丁寧な問診と評価が必要です。
■ 「なりやすい人」はいるのか
診療の現場では、「うつになりやすい人の特徴」としてよく見られるパターンがあります。ただしこれは傾向であり、当てはまらなくてもうつ病になる方はいますし、逆に当てはまっていても発症しない方もいます。
・何事にも全力で取り組み、手を抜けない
・「迷惑をかけてはいけない」と一人で抱え込みやすい
・NOと言えず、断ることが苦手
・失敗を必要以上に引きずる
・他者の気持ちに敏感で、傷つきやすい
・睡眠が乱れがちで、疲れが抜けにくい
こうした特性を持つ方は、自分の限界に気づかないまま消耗し続けてしまいます。「頑張ればもう少しいける」という感覚のまま限界を超え、ある日突然、体と心が動かなくなる——これがうつ病の典型的な経過のひとつです。
「まだ大丈夫」と思えているうちに、少し休む勇気が必要です。
■ うつ病は治るのか——回復のプロセスについて
結論から言えば、うつ病は適切な治療を続けることで、多くの方が回復できる病気です。「一生このままなのではないか」という不安をよくお聞きしますが、適切な支援があれば、日常生活を取り戻せる可能性は十分にあります。
治療の主な柱は以下の3つです。
【休養・生活の立て直し】
まず何より「休むこと」が治療の第一歩です。脳に休息を与え、ストレス源から物理的に距離を置くことが回復の土台になります。「休んでいて申し訳ない」という罪悪感は不要です。休むことは治療です。
【薬物療法(抗うつ薬)】
セロトニンやノルアドレナリンのバランスを整える薬(SSRI・SNRIなど)が主に使われます。効果が現れるまでに2〜4週間ほどかかることが多く、最初は焦らず続けることが大切です。「薬に頼るのは負け」というわけではありません。眼鏡で視力を補うように、薬で脳の状態を補助するのは自然なことです。
【精神療法・カウンセリング】
認知行動療法などを通じて、ものの受け取り方のクセや、自分を追い詰めるパターンに気づき、少しずつ変えていきます。薬と組み合わせることで、再発率を下げる効果も期待できます。
回復は直線的ではありません。良くなったと思ったら少し落ち込む、という波を繰り返しながら、少しずつ上向いていきます。「昨日よりマシだった」という小さな変化を大切に、あせらず、自分を責めず、歩み続けてほしいと思います。
一人で抱え込まないこと——それが、回復への最も大切な一歩です。
■ こんな症状が続いたら、受診のサインです
次のような状態が2週間以上続いている場合、専門家への相談をお勧めします。
・気分が沈んで、何もしたくない
・以前は好きだったことが楽しめない
・眠れない、または眠りすぎる
・食欲がない、または食べすぎる
・疲れやすく、体が重い
・集中できない、物忘れが増えた
・自分が役に立たないと感じる
・消えてしまいたい、と思うことがある
「これくらいで受診していいのだろうか」と思う方がとても多いのですが、早めに相談した方が、早く楽になれます。受診することは弱さではなく、自分の心と体を守る、賢明な選択です。
市川市・浦安市・船橋市・江戸川区にお住まいの方、あるいはその周辺地域からも、さんメンタルクリニックにご相談いただけます。はじめての受診で不安な方も、どうぞ遠慮なくお越しください。私たちは、あなたの「話したい」という気持ちを大切に受け止めます。
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■著者
さんメンタルクリニック院長 宇谷悦子
<経歴>
・鹿児島大学医学部医学科卒業
・鹿児島大学医学部眼科入局
・医師免許取得
・島根大学医学部精神医学講座入局
・島根大学医学部附属病院 外来医長 リエゾン医/緩和ケアチーム 兼任
・特定医療法人恵和会 石東病院 診療部長
・大田市立病院 非常勤医
・島根県央保健所こころの相談
・大田市自死対策委員
・南行徳メンタルクリニック副院長
・さんメンタルクリニック院長
<資格・所属学会>
・精神保健指定医
・日本精神神経学会
【編集協力】
本記事は、医療機関の経営支援・Web戦略支援を専門とする
株式会社C&D Hubの取材・編集協力のもと作成しています。